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KODAKとフジフイルム、コニカ―のビジネス上における加上発想論

KODAKとフジフイルム、コニカ―のビジネス上における加上発想論
企業の盛衰にも『加上』は、大いに関係しています。一つ例として銀塩感材を挙げてみます。これは平たく言うとフイルムのことで、世界には四社のビッグカンパニーがありました。アメリカのコダック。ドイツのアグファ。そして、日本のフジフイルムとコニカです。 一瞬の表情や、自然の美しさを切り取り、それを静止画像で残す。一般家庭で記念写真や記録写真に使ったネガフィルム。印刷やスライドに使ったポジフィルム。産業用のフイルム、レントゲンフイルムなど多くの分野で幅広く使われてきた。もちろん、モノクロからカラー、ネガからポジへと技術・製品的にも『加上』が行われていました。

『加上発想論』が新技術を生み出す

問題はこれからです。銀塩感材の技術背景には、フイルムコーティングにナノ技術の繊細さが要求され、各企業はそれの競争に当たってきました。フイルム感度で言えば、100が200、400、800、1600と『加上』された事実があります。

しかしながら、IT技術、デジタル技術の発展は、アナログ技術を一気に飲み込んでしまった。その象徴がデジタルカメラの登場である。発売当初、フイルムで写った写真プリントに比べて、情報量が少ないために、のっぺりとした風合いであったが、改善されるスピードは速く、プリントで見る分には、フイルムからのプリントと遜色のない出来映えになりました。

カメラ本体はさることながら、プリンターも複雑な工程がいらないので、こうなると、マーケットにアクセプトされるのは時間の問題で、あっという間に浸透することになった。それに加えて、モバイルの登場がその状況に拍車をかけた。コンパクトカメラ以上に手軽に扱え、なおかつ写真転送が簡単にできることから、写真撮影・プリントの世界が一変してしまったのです。

『加上発想論』がマーケットを捉える

フイルムプリントの激減は、当然、フイルム使用の激減にも繋がるわけで、市場から百数十年の歴史を誇る銀塩感材が消えていくことになった。これは、一般用だけでなく、産業用のマーケットでも同様のことが起きていた。

それは映画産業である。コンピュータによるデータ処理と、デジタル技術を利用することによって、撮影、編集、上映と、完全にフイルムレスになっている。フイルムに比較すると解像度が落ちると言われていたものが、ハイビジョンの開発で革命的な大転換を起こし、デジタル撮影による恩恵は、映像ソフトがデジタルデータのままで配給され、そして、上映されることになったのです。

データ回線での転送が出来るので、フイルムの現像、配送などのコストがセービングでき、オンライン配信に象徴されるシネコンの時代を迎え、結局は、この世界もデジタルに『加上』されることになりました。

アメリカのエクセレント・カンパニーであったコダック社は、世界がデジタルに席巻されるにつれて、銀塩感材マーケットの縮小の波をもろに受けました。銀塩感材業界は、フイルムの製造ラインとしては完璧な装置産業で、莫大な投資がいるが、デジタル産業は平準化、標準化されたエレクトロニクス技術で対応が出来るため、技術格差がつき難い特徴があります。

このため、躍進する新興国は、技術導入に際して、アナログではなく、マーケットが要求しているデジタル技術を、いきなり導入することになった。その最大の国が中国である。

『加上発想論』とビジネス

コダック社も中国への進出にあたっては、アナログであるフイルムで考えていたが、時代の要請にはあっていなかった。時代はまさにデジタルの世界に入っていた。映像関連の製品化はデジタル技術の延長線上にあり、エンターテイメント、医療、情報、などはデジタル化の波を受けて、フイルムレスの様相を一気に加速させました。

街中のカメラ店からフイルムが消え、写真現像ビジネスは、デジタルカメラやスマートフォンのプリント需要に応えるのと、デジタルアルバムの作製などに活路を求めるようになっています。いずれにしても、銀塩感材業界は雲散霧消状態になってしまいました。

映像関連の基礎特許を有していたコダック社のビジネスは、いきおいジリ貧になり、ビジネス防衛を社員のリストラで乗り切ろうとしましたが、それも上手くいかず、現実にはデジタル戦争に敗退したといえます。

日本国内では、かつての映像企業と言うよりは、印刷のプリンティングシステムに特化した企業としてのポジションを作っています。

では、なぜそうなってしまったのかを見て行きます。そこには『加上発想論』の考え方がなかったように見受けられます。というのも、コダック社は、技術的資産がありながらも、それを活かす時代の要請に応えるような「上を出る」という『加上』することが出来なかったことに原因があるかも知れません。

このことが結果的に、IPOに結びつくことになりましたが、規模を大幅に縮小したデジタルイメージング企業として連邦破産法11条の適用から脱することになりましたが、昔に面影はありません。

『加上発想論』で基礎技術の製品化

一方のフジフイルムですが、全世界のフィルムマーケットではコダック社と二分するシェアを持っていました。デジタル時代の波を被ったのはコダック社と同じ条件にありながら、持ち前の企業力がコダック社とは別の姿を見せることになったのです。

もちろん、彼らもリストラを実施している。だが彼らは、フイルム研究で培ったゼラチンや抗酸化物質、コーティングのナノ技術を活かすことによって、普通では考えられないような既存の成長マーケットに参入した。

それはヘルスケア事業としての化粧品市場です。このマーケットは、デパートや専門店で販売する制度品メーカー。直接生活者に送り届ける通販メーカー。さらには、顧客にダイレクトに接触する訪問販売などがあり、飽くなき美を求める女性を対象にした激戦地です。特に通販の分野は、専門メーカーから食品メーカー、製薬メーカーなど、群雄割拠ともいえる状況にあるのです。

フジフイルムは、その中で通販ビジネスを選択しました。第三者を通さずに直接生活者と繋がる最短距離の手法である。ここで重要なのは、ブランド力×製品力×価格である。ブランドについては一般消費財メーカーとしての蓄積はありました。特に、製品開発力や品質力は群を抜いていることはいうまでもありません。

一見すると、フイルムと化粧品は結びつかないように思えるが、根本のところでは共通する技術があったのです。

実際の化粧品の製品については、フイルムで培ったナノ技術を、化粧品開発に『加上』することで、既存メーカーとは違ったコンセプト打ち出し、広告宣伝もタレントを起用しているが、派手ではなく、じっくりとして徐々に深く静かに浸透するような戦略をとりました。

結果、参入から数年にしてそこそこのポジションを占めるようになった。その他にも、ヘルスケア事業分野(X線画像診断システム、医用画像情報ネットワークシステム、内視鏡や超音波診断システム、医薬品)。高機能材料分野(写真事業で培われた技術を使った偏光層保護フイルムでは、世界シェアの八十%を誇っている)。

光学ディバイス分野(テレビカメラ用レンズ、衛生光学系レンズ、監視カメラ用レンズ、プロジェクター用レンズ、携帯電話用カメラモジュール)。グラフィックシステム(デジタルプリンティング)。デジタルイメージング(デジタルカメラ、カラーペーパー、フォトフィニッシング機器)。

このように、これまでの資源を活かしたビジネス展開をしています。

『加上発想論』で経営統合

次にコニカです。

コニカもフイルムという銀塩感材製品群を持っていましたが、世界市場では、コダック社、フジフイルムに負けていました。しかしながら、コピー機をメインにしたドキュメント企業としてのポジションはもともとあったのです。

そして、デジタル化の波を受けた時、彼らは同じドキュメント企業のミノルタと経営統合することで『加上』し、情報機器事業分野(主力である、複合機(MFP)を扱うオフィスと、商業印刷や企業内印刷で展開するプロダクションプリント、産業用インクジェット)、産業用材料・機器事業分野(液晶ディスプレイに使用されるTACフイルムや一眼レフ交換レンズなどが主力製品であり、さらに産業用計測機器や成長分野である有機EL照明など)、ヘルスケア事業分野(最先端の画像処理技術を活かした画像診断システムの製造・販売や保守およびサービス事業)と、より一層層のドキュメント企業を標榜することで、マーケットを世界に求めたのです。

「上に出る」『加上発想論』は資源を活かす

このように、マーケットから受けた逆風の中で、三社がとった態度は全く異なっています。三社ともフイルム技術をベースにしたナノ技術の開発をしていたにも拘らず、次世代ビジネスへの『加上』に大きな差が見られたのです。

フジフイルムとコニカは、時代の感性とマーケット状況を見極めて、既存の資源を形は違うが『加上』することで、新しいビジネス領域を創出していますが、他方、コダック社は、十二分に資源があったにもかかわらず、「上に出る」『加上発想論』の実践をしなかったこと、つまり、これまで鍛えられた技術を活かす商品に結びつけられなかった差が、21世紀に入って企業存続の決定的な違いになっていると言っても過言ではありません。