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知覚情報機器分野に於ける『加上発想論』の可能性

知覚情報機器分野に於ける『加上発想論』の可能性
ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった大村先生は、研究するに際して、お祖母さんから人類の役に立つようなことをやりなさいと、常に言われていたことを紹介していましたが、『加上』の考え方、発想論も全く同じで、やるからには人類の役に立つことに対してチャレンジする精神を養って欲しいものです。その意味では、日本人の特性を生かした科学・技術分野での『加上』のポテンシャリティを概観してみることにいたします。

日本学術会議が取りまとめた科学・技術発展のための長期研究の推進

―知覚情報取得技術による限界突破―では、知覚情報機器に関してのアンケート調査を行い、その中で、「現在、我が国が持っている独自技術」について聞いています。そこで挙げられた技術は、次の通りで、つまり、今後の『加上』が期待できる分野であることを教えてくれています。

・半導体

・青色LED

・紫外LED

・液晶パネル・液晶ディスプレイ

・導電性ポリマー

・インクジェット

・高分子化学

・PAN計炭素繊維

・ファインセラミックス技術

・カーボンナノチューブ、カーボンナノチューブのバイオ応用、ナノ温度計

・カメラ技術

・電子顕微鏡技術(冷陰極型電界放射電子、超高電圧電子顕微鏡、脱着式対物

レンズ磁極片、超高真空高分解能電顕、極低温高分解能電顕、電圧変動型収

差補正技術、高分解能電顕技術、収束電子回析技術、電顕内軟 X 線分光装置、電子線ホログラフィ)

・X 線(特に実験室系)

・バイオインフォマティクス

・微小ビーズによる抜粋(ナノ粒子分散)

・タービン製造技術

・町工場のもつ加工技術

・中小企業がもっている独自技術(金型など)

・鉄の高度化(例えば一方向性電磁鋼板自動車用冷延薄銅板など)技術

・製造業

・光学加工

・光検出

・精密加工技術

・機械加工

・情報・通信

・高速デジタル回路および通信技術

・高精度・高感度の電波受信装置(アナログ技術)

・コンピュータによる高度な自動制御技術(ロボット技術)

・制御技術

・プラズマ技術

・触媒

・光触媒などのナノ触媒

・電力技術

・航空・宇宙技術

・鉄鋼生産技術

・固体ロケット

・高速鉄道

・ハイビジョン

・ロータリーエンジン

・レンズ技術

・電子管技術

・自由電子X線レーザー(の一部)

・放射光ビームラインモノクロメーター

・X線画像検出(ハープ方式)

・X線位相イメージング(一部)

・超高精度X線ミラー

・大型放射光関連技術

・X線自由電子レーザー関連技術

・イメージングプレート、光学機器

・エネルギー環境、電池・燃料電池

・電子・光産業における基礎材料技術

・ナノ材料・バイオサイエンス

・蛍光標識分子、分子標識技術、光学顕微鏡1分子計測技術

・応用ゲノム技術

・遺伝子工学

・鳥インフルエンザワクチン

・超微小試験による材料特性評価技術

・ハイブリッド車に代表される融合技術

・内視鏡

・新幹線

・炊飯器

・(超伝導)リニアモーターカー

・地下深部地殻活動観察技術、ライザー方式深海底掘削技術

・耐震木造構造物、耐震設計技術

・長大橋架設技術

・高効率堅型媒体攪拌ミル

・X線異常散乱

・プラズマ核融合技術

・接着歯質治療

・歌舞伎・能をいった伝承芸術

・和洋建築

・伝統工芸

・漆

・製紙

・麹を利用した発酵技術

・きのこ菌床栽培

科学技術立国日本だけあって、「現在、我が国が持っている独自技術」として、機械、電子、建築、医療、化学、航空・宇宙など、多くの分野が挙げられています。

それは、『加上発想論』の適用が期待される分野です。中で目を引くのが、歌舞伎・能をいった伝承芸術、和洋建築、伝統工芸、漆、町工場のもつ加工技術 、中小企業がもっている独自技術(金型など)があります。

ハイテク技術とは相容れない、それこそ異質のように思えるのですが、第一線の技術者が、日本の強みでもある、町工場のもつ加工技術 、中小企業がもっている独自技術を認めていることに対しては尊敬の念を持たざるを得ません。

実際、三菱のリージョナルジェットのMRJのテスト飛行が11月11日に行われましたが、それの製造については、多くの中小企業が参加しています。

我が国が持っている独自技術の衰退について

次の、「現在、我が国が持っている独自技術」の中で、衰退しつつあるものを記してくださいとの質問には、次のように答えている。

・電力技術

・レンズ技術

・電子ディバイス技術

・電子顕微鏡技術(CCDカメラ技術、電子線トモグラフィー技術、傾斜低温

ステージ技術、制御ソフトウエア、解析ソフトウエア、CS コレクター)

・イメージングプレート

・光学加工

・機械加工

・鉄鋼生産技術

・新規医薬品開発

・医療機器の製造販売

・電子管技術

・リチウム電池

・フィルムカメラ

・精密加工技術

・金型作成技術

・高精度・高感度の電波受信装置(アナログ技術)

・情報・通信

・遺伝子工学

・超伝導リニアモーターカー

・FBR(高速増殖原子炉)

・長大橋架設技術

・町工場のもつ加工技術

・伝統工芸

この中で特徴的に言っているのが、先進技術の中にあった、町工場のもつ加工技術、伝統工芸、金型作成技術が、衰退分野に入っています。しかしながら、例えば、新規医薬品開発はiPS細胞技術の進展によって、まったく新しい視点を『加上』することでの新薬の開発が期待されています。

電池に見る『加上』の世界

また、リチウム電池の開発は頂点に達しているかも知れませんが、『加上』がすすみ、革新的材料設計法により、超寿命2次電池開発に京都大学が成功しています。

シャープと共同で、従来のリチウムイオン電池の寿命を6倍以上達成できる材料の開発に成功し、蓄電池の寿命の延長だけでなく、マテリアルズ・インフォマティクス手法により、材料開発の時間軸を加速できることを実証しています。

その一方でリチウムに代わる素材―マグネシウムを使った電池開発も進んでいます。

リチウムの融点は焼く180度だが、マグネシウムは650度と高く、仮に電池が高温になっても破損する危険性が低いとされ、これを材料として採用すれば、価格も安く安全性が高い、次世代電池の開発に繋がるものと期待されています。

同じ京都大学では、電池の電極を浸す液体と、新素材のプラス電極を新に開発し、マイナス極にマグネシウムを組み合わせ、1キログラムあたり約250ワット時の容量を実現し、高性能リチウム電池の200ワット時を上回ることに成功、材料費も約一割に抑えられた。

しかしながら、電気自動車に使うにはパワー力でリチウム電池には及ばないので、これから先の改良が必要と見られています。

さらに、注目を浴びているのがナトリウムイオン電池です。ナトリウムは海水から大量に取得できるため、コスト的にもリチウムを上回る経済効果がありますし、小型化、大容量化されることで、利用範囲も広がることが期待されています。

この分野の開発は、大学では東京工業大学や東北大学、企業では電池メーカーや電線メーカー、自動車メーカー、電機メーカーなどが研究を続けており、遠く琥珀の摩擦の静電現象から始まった電池は、『加上』を繰り返し、今や宇宙開発をはじめ自動車、飛行機、PC・モバイルなどの通信機器、コードレスの一般家庭用品などに使われています。

では、参考までに電池における『加上』を見てみましょう。

今、我われが手にすることが出来る電池は、マンガン乾電池、アルカリマンガン乾電池、リチウム電池、酸化銀電池、空気亜鉛電池、ニッケル・水素電池、リチウムイオン電池などがあり、形状はボタン、コイン、角、平形がある。

何に使われているかというと、ラジオ、ラジカセ、デジタルカメラ、デジタルビデオ、補聴器、携帯電話、ノートパソコン、時計、ゲーム機など多分野にわたっている。

電池の歴史的『加上』の変遷

ここで、電池の歴史的な変遷、つまり『加上』の変遷の足跡を見てみることにいたします。

 1791年 ガルバーニ   カエルの筋肉の動きか電池の原理を発見。

 1800年 ボルタ      ボルタ電池を発見

 1836年 ダニエル     ダニエル電池の発見

 1839年 グローブ     鉛電池の発見

 1859年 ブランチ     鉛蓄電池の発見

 1868年 ルクランシェ   ルクランシェの乾電池の発明

 1885年 屋井先蔵     乾電池の発明

 1888年 ガスナー      乾電池の発明

       へレセンス    乾電池の発明

 1889年 ユングナー    ニッケル・カドミウム蓄電池の発明

 1900年 エジソン       ニッケル・鉄蓄電池の発明

 1904年 島津製作所    国産の鉛蓄電池の販売

 1953年トーマス・ベーコン  アルカリ電解質形燃料電池の発明

 1959年 ルイス・アリー    アルカリマンガン乾電池の発明

1900年代の後半になると、リチウム電池、リチウムイオン電池、ニッケル・水素蓄電池、燃料電池、太陽電池など、革新的な技術が開発『加上』され、宇宙開発をはじめ多くの分野で使われるようになった。

このように、電池の開発の歴史は素材発見の歴史でもあり、現に、太陽電池は、ベースの素材に何を使うかによって、大きくエネルギー効率が違ってくる。『加上』は連綿として続いているのである。

独自に開発を進めるべき「知覚情報収集技術」の『加上』

ここで、もとに戻って、将来にわたって我が国が独自に開発を進めるべき「知覚情報収集技術」として挙げられたものは、

・LED技術

・超音波顕微鏡

・分子イメージング

・分子生物学の可視化

・生物細胞内の薬物動態のイメージング

・蛋白質、アミノ酸と低分子化合物の結合を視覚的に研究できる技術

・光学顕微鏡技術(+蛍光プローブ)

・蛍光色素などを用いたイオンや内因性物質のトレーシング

・埋め込み型人工感覚器

・ナノスケールでの可視化技術

・透過型電子顕微鏡(+データ処理、3D画像の構築、雰囲気制御型、超高圧、パルス型)

・走査型電子顕微鏡(+EDX、低温)

・MRI(+細胞レベル、携帯型)

・磁気共鳴イメージング(+高磁場、超高分解能)

・有機/無機界面の構造ならびに結合状態の解析

・2光子励起蛍光顕微鏡

・電波望遠鏡

・加速器技術

・X線トポグラフィー、X線解析装置、X線顕微鏡

・非線形レーザー顕微鏡

・遠赤外線・テラヘルツの超高感度センサー技術、テラヘルツ顕微鏡

・光検出器技術

・共焦点レーザー顕微鏡

・電界イオン顕微鏡

・内視鏡技術を含めた医療分野での知覚情報収集技術、診断機

・人口網膜

・光トポグラフィー

・走査型プローブ顕微鏡(+超高速SPM)

・放射光、中性子線を用いた物質イメージング技術

・3次元アトムプローブによる材料・ディバイスの原子分布の視覚化

 などが挙げられています。

日本の科学・技術の『加上』

我が国の科学・技術の行く末はMade in Japanの誇りを守ることです。部品点数のアッセンブリ―が技術的に裾野を広げる、宇宙・航空産業が引力となって、それこそ中小企業を巻き込んで、一大技術集団を築き、それの波及効果が他分野に影響力を行使するようになります。

まさに、『加上』は縦の深耕から横の拡幅へと進化を遂げることで、多くの場面に遭遇するチャンスが得られることになります。

日本の科学・技術の推進役は、産・官・学の有機的な連携が重要ですが、特に、産・学の研究開発力、産業化力の実践力が『加上』することで、新しい科学・技術の息吹が噴出することになります。

そういい意味では、『加上発想論』を展開する視点のポジショニングを、もう一度目の前のまな板に乗せて、見つめ直すことが求められます。