リスペクト・畏れ
上手な叱るためには、まず相手からの一定程度のリスペクト、あるいは畏れとでもいうものが必要です。このことはあまり指摘されませんが、分かりやすく言えば、「この人はできる」と思わせることです。部下から見切られ、たいしたことないと思われているのに、上手に叱り、導くことは困難です。尊敬されていない親の言うことを子どもは聞きません。 その意味で、上司としての力量や凄みをたまに見せておく必要があります。すべての面で上回る必要はないですが、トータルでこの人は自分より上だ、かなわないと思わせておくのです。
怒ると叱るは違う
そのうえでまず押さえたいことは、叱ると、怒るとは違うということ。 怒るのではなく「叱る」。辞書にも「怒る」は「腹を立てること」、「叱る」は「目下の者のよくない点などを指摘しとがめること」とあります。 もちろん「叱る」ことには「厳しさ」が伴いますが、それは、感情をぶつける「怒る」とは違います。相手が思い通りにならないときに「怒る」ことが多いですが、相手を萎縮させるだけで、相手の成長につながらない場合もあるのです。 怒りそうなときこそ深呼吸をし、あえて静かに叱ってみる。ドスが利いて効果的かもしれません。
事柄を叱り人格否定をしない
上手に叱るには、相手の具体的な行為や判断を叱り、相手そのものの否定にならないようにすべきです。否定すべきは、相手そのものではなく、相手の行った「行為」や「判断」だということです。 そのためには「具体的」に叱る。抽象的に叱っても、本人も理解は困難ですし、人格そのものを否定するような叱り方になってしまいます。相手の行為や判断を具体的に叱るよう心がけましょう。
相手を全否定せず良い面を見据えて叱る
また、相手を全否定しないことです。相手の良い点を見据え、必要があればそれを伝えながら、返す刀で、改善すべき点を指摘し叱る。 これは、逃げ道を残すということに通じる面もあります。窮鼠猫を噛むという言葉もありますが、全否定しては、その後の関係構築は困難です。反抗心や恨みのもとになることさえあります。
その都度叱り古い話を持ち出さない
また「その都度叱る」ことです。そのほうが理解もでき、叱られる相手にとっても親切です。 最悪なのは、普段は寛容そうにしておきながら、いざというときに、あの時はこうだった、その時もこうだった、と叱ること。ため込んで一気に吐き出すのは最悪です。時間が経ったことを突然指摘されて、素直に受け入れるのは困難ですし、根に持つ上司だと見られ、良好な信頼関係を築くのは難しくなります。
一対一で叱る
叱り方の基本は一対一で叱ることです。別室に呼んで叱りましょう。特にプライドの高い方を人前で叱ってはなりません。 中には、人前で叱っても気にしない部下もいます。陽気なタイプです。そういうタイプには、全体を引き締め、その人をふだん面白く思っていない人のガス抜きのため、あえて、皆の前で叱るという技もあります。
叱る前の関係構築
叱った後のフォロー 叱る前の関係作り、叱った後のフォローも重要です。関係をつくっていないと、単に自分が嫌いだからなのかと、相手も聞く耳を持ちません。 また叱った後のフォローも考えておきましょう。激しく叱ったときほどに、しっかりとしたフォローをしましょう。相手も救われます。
まとめ
一生懸命叱る 松下幸之助氏や本田宗一郎氏は、全身全霊で部下を叱り、社員の皆さんも大いに肝が冷えたそうです(しかし、フォローが非常にうまかったし、畏敬もされていた)。 いくら冷静に叱ってところで、叱った側も正しかったのかどうかと、いろいろ考えさせられるものです。時には嫌われることも覚悟して、あまり計算せずに、相手のために言うべきと信じることを言う、そうした相手の成長を心底願い、最後は、テクニックを超えて、一生懸命に叱るということも、指導者には必要な態度ではないでしょうか。 以上、相手に嫌われない、上手な叱り方をまとめました。参考になれば幸いです。